『鉄楽レトラ』を読んだ

捨てようとしていた靴を互いに交換するところから、新しく青春を始める高校生の話。
何気なく自分のやったことが、誰かにとっての大きな救いになっていることもある、がテーマ


ボーイミーツガールから始まるんだけど、まっすぐ行けば1時間半であえる距離にいるのに、かっこいい自分になれるまでは藤本に会わないと決めている、ふたりの距離感がすごく好みだった。

挫折して学園生活からあぶれたままなんとなく生きていこうとしていた人たちが、誰にも触れられたくない闇の部分を少しずつ分け合いながら、スペイン舞踊(フラメンコ)を通してそんなおれたちでもやっていこう、と一歩ずつ前へ進んでいく。そんな彼らを見て心を動かされる人がいて、世界が少しずつ広がっていくのが良かった。

鉄宇が周りの人に知らないうちに助けられてたって気が付くところでかなり泣いた。
母の言葉が毎回したたかで優しい。「あんたが自信を持てないぶん、母さんが持っててやるから」でぼろぼろ泣いた。じいちゃんも何気ない鉄宇の言葉に励まされて彼を元気づけている。良い。

3人が仲良くなるまでの話も好き。
市川が自分のエゴで世話焼いてるのが本当はよくないことだって分かってるところとか、菊池と和解するために家に押し掛けたときの「情けないやつらの集まりってこと?」「気兼ねする必要がなくて最高だね……」が好き。情けない自覚をみんな持っていてもがいているのが良い。

森野先生と対照的な考え方をする河内が出てきたことで、勝ち目のない予選に出てまで守りたいと思えるものができたところに成長を感じた。強ボスに挑むと決めたところからの鉄宇が、踊っているシーンでもこれまでとは別人みたいにかっこよくなっていたのが印象的。それでちょっと認められてきたころに靴が壊れるんだから、もうお守りがなくてもやっていけるくらいモノにしたってことだよね。

正直、それまでは人間関係や心情の変化がじっくり描かれてたから、終盤は駆け足ぎみだったのがちょっと残念。
これからの藤本との関係も二人の技術的な成長も、もう何話か読みたかった感じ。
うまくいかなくて苦悩しているときが多いから、なんだかんだドカンと一発それらしい成功をしてほしかったという期待も私の中にあったんだと思う。


苦しくても楽しくてしょうがないと思えるほど打ち込めるものを手に入れて、今はどん底でも明るくなるときがくる、と信じられるようになったことが大事な話だから、分かりやすい成功を求めるのはちょっと違うかも。


読んだ後じわじわ沁みてくるやさしい青春と絆の物語だった。