『Even if TEMPEST 宵闇にかく語りき魔女』クリア感想

推理風女性向け恋愛シミュレーションという感じのゲーム。
自分を虐げていた家族への復讐をしたくて死に戻りの力をもらったら、力の持ち主の悪い魔女と大切な人を懸けたゲームをすることになり、能力を使って奔走する話。

以下ストーリーに関してはネタバレを含みます。

ゲーム部分

誤字も脱字もコンシューマにしては目立つ、けどボイスで直ってたりするので許容範囲。
選択肢で好感度の分岐がある乙女ゲーム的なものに加えて、目玉は魔女裁判パート。
事件が起こったら証拠集めして、裁判の流れ。
証拠集めは決められた時間内に誰に話を聞くかリストから選び、聞きに行くと時間が経過する。重要なところを押さえないと裁判に進めないので証拠がなくて詰むことはなかった。
裁判は始まる前までの流れで答えが出ている場合が多く、主人公のスキルで特定の人に疑いがかかるように評判を上げ下げするのがメイン。最後の決定打として証拠を出す感じ。
だから逆転裁判やダンガンロンパみたいな裁判パートを期待すると肩透かしかも。

システム

テキストアドベンチャーで必要なものは一通りそろっていたと思う。ただバッドのあと選択肢前に戻るシステムがないのでこまめにセーブしないといけなかった。いろいろなゲームでオートセーブに甘やかされすぎていたので結構泣きをみた。オートセーブはロードできるデータではないみたい。
裁判パートでスキップするとスキル使うとき・証拠出すときにバックログが使えないので、周回するときちょっと大変だった。あとバッドエンドのスチル見た後にタイトルまで戻らないとアルバムに登録されない。

ストーリー全体

終わらせたくなくて、最終章ひとつ残してダラダラ感想書いちゃうくらい面白かった。
死に戻りと復讐の絶望の先にある、光を信じてもがき続ける話が見たかったので満たされた。みんな死が避けられないので攻略キャラの絶望顔も多い。好き。
序盤はうっかりしてるとすぐ誰かが殺されてバッドエンド直行しちゃうんじゃないかと戦々恐々としてた。フマまで死んじゃうかと。
キャラクターは申し分なくみんな違う魅力があって救いたいと思えた。後半ふたりのルートは真相に割かれてるので乙女ゲームの攻略印象と思うとちょっと物足りないかも。
終盤の展開は強引だったけどファンタジー世界なので許した。何より主人公には報われてほしかったのでOKです。

エンディング迎えると攻略対象たちとの関係がまっさらになってるから、好意を覚えたままの主人公と別の世界線のキャラたちとの溝が残ったまま終わるのはちょっと引っかかる。アナスタシア自身が大切な人を全員救うことを願っていたから誰も見捨てないのはしょうがないんだけど。これからどうやって新しい関係を深めていくかファンディスクに期待。
ただ、復讐を心の支えにしてる時間が長かったわりに、魔女を倒した後もコンラッドやリンゼル家まわりのことには特に触れなかったのが消化不良ではあった。憎しみを手放したにしても、もう少し今の心と向き合って成長したと思えるところは欲しかったかな。
最後の過去と未来の分岐を見る限り、継母は死ぬまで(死んでも)理不尽な暴力として存在し続けるから、正面からぶつかったところで解決できるような存在じゃないのかもしれない。

キャラごとの感想

攻略順+α

クライオス

ルーシェンルート入るまでこの人を救いたくてしょうがなかった。騎士として強くて世渡りがうまくて人当たりもいい、だけど実は何も感じられなくて空虚なのを隠していて、命が懸かっても平気で投げ出しちゃう。こんなの好きにならないわけがない。ほかの騎士とのやりとりも多くて、アナスタシアにとって騎士団が居心地のいい場所なんだろうなというのが伝わるから好きになりやすかった。ずるい。

その分殺人が起きてめちゃくちゃになっていくのが辛かった。アナスタシアも慣れてないから一番死に戻り使ってるし。クライオスもヒューゴも救いたいと思っているアナスタシアが狂気に気付かせるひと押しをしてしまっているのがやるせない。赤薔薇の大した欲望をもってなかった人が最期に望んだのが他人を傷つけないために自分が消えることなんてもう泣くしかないでしょ。この時の二人は黒薔薇にしても、近くはなっても恋仲までは距離を詰められないのが悲しい。エンディングを迎えて別の自分を知ったら嫉妬するキャラが一人はいるだろうと思ってたので最終章で萌えた。
過去の話に意外と触れずに終わったのは、クライオス自身は終わったことにしてるからなのかもしれない。そういうところはアナスタシアと対照的。

そういえば病気と魔法でぶっとんでた状態だったとはいえ、結局人間の力だけでエンダーを退けられてたってことだよね? 本気の腕っぷしどうなってるの?

ティレル

鋭い言葉選びが好きでスクショの大半がこのルートで埋まってる。自信はあるのに褒められると何回でもおかわり要求してくるところがかわいい。クライオスと互いに「俺の」部下って取り合いしてるとこいいよね。赤薔薇はいくらでもやりようがあったのに信じてたものが全部なくなっても潔く自分で責任をとるところが最期まで自分の力を信じているようで好き。最後の生き残りって自覚が強いからなのかな。

疎まれやすい仕事でも自分なりの美学をもってストイックにやっているところがかっこいいので、どちらかというと恋人よりは直属の上司になってほしい。と思っていたら最後に立場が逆転してしまってほんの少しショックだった。従者やってるときの敬語も、朝弱いのをおして迎えに来る健気さも素敵だけど、私はあの鋭さと自分に自信があるがゆえの口の悪さが好きだったんだ……。でもこのティレルだと心からそういう関係になるにはまだ時間がかかりそう。お互い遠慮しちゃってるのもかわいい。

ゼン

命を懸けて守ろうと思うには、最初に助けてくれた人だし大事な人の友人だからって動機はちょっと弱い気がした。それでいてこのルートでやることがここまでの死に戻りをすべて否定するものだし、魔女の話ばっかりしてるし、クライオスのこと好きでしょ?とか聞いてくるので、共犯関係〜気の合う同僚くらいの距離から詰められるとはとても思えない。せっかく契約変えてその通り大事な人を自分で手にかけるまでしたのに、報酬はいらないから幸せになれとか急に断ってくるのが腹立つ。アナスタシアに気持ちが追い付いていかなかった。なんで攻略対象なんだろう、とさえ思った。

しかしいざエンディングを迎えると、他の人は忘れた関係を覚えててくれる人がいるというのはシンプルに強かった。すみませんでした。不器用だけど好きな人にはどろどろに甘やかしてくれるところと、死に損なっても迷いなくとどめを差してくれるところが好きです。ルーンが正しくは「世界線」じゃないって言ってたのに二人で世界線を連呼してたのはなんかコントみたいだった。それ以外に簡潔に言いようがないよね

ルーシェン

ゼン以上に真相編っぽくて全員しっかり出てきてたのでもっと二人きりの時間がほしかった。真実を知ったアナスタシアが戻れなかったんじゃないかと思ってルーシェンにかなり感情移入してしまった。
基本的に死に戻りが起こったらみんなアナスタシアとの関係は忘れてしまうけど、ルーシェンが彼女との約束を忘れずに努力していたから他の4人と知り合うことができたんだよね。他のルートだと冷血王子として振舞っているところしか見てこなかったから、アナスタシアと再会して表情が豊かになって本来の弱気で幼いところが出てくるギャップに萌えた。

かたくななアナスタシアを一瞬で子どもに戻してしまうのは年齢だけじゃなくてこの人ならまっすぐ受け止めてくれるとわかるからだと思う。クライオスに捜索を頼むときもノイシュバーン的なふるまいを撤回したから、この人になら彼女の意思を尊重できるって思われたんだろうし。ルーシェンは迷いながらも最後は正しさを選び取れる人でいてほしい。
黒薔薇の、アナスタシアがいないところで一人完結してしまうところが理性を失っても自信のなさが勝ってて好き。

アナスタシア

序盤しきりに言ってた強くなって守るから、が悲痛だった。一緒に抱えてくれる人たちに出会えて本当に良かったなあ。自分に何もないと思ってるから素直に他人を尊敬できるってどこかのルートで言われてたのが印象深い。だから操作されやすいとも。話が進むにつれて軽口が増えてかわいらしくなっていくのがうれしかった。娘のよう。女神の力を手に入れても返しちゃったり、かと思えば一人のために持ち出したり一度決めたら豪胆なところが好き。しいて言えば終盤のスチルそんなにむちむちしてなくてもかわいいよ。

マヤ

心の支え。マヤが献身的だったから救われるところがあった。まさかもともとの主人の家の人も殺してもいいくらいだとは思ってなかったけど。他の男性陣とあんまり仲良くないところが本気でお嬢様を大事に思っててすてき。

コンラッド

フィクションのネチネチモラハラクズ男が好きなので最後の最後まで清々しく悪役で嬉しかった。ティレル黒すき。権力持っててプライドが高いキャラはあっさり退場してるほうが愛おしくなる。

イシュ

文字で見るより情報量の多いボイスが面白かった。アナスタシア見つからなくてつまんないって言ってる時のロングトーンすごい。
やることは残酷で本能のままなのに大昔の約束は守るところが憎めない。子どもの無邪気で残酷なところをかき集めたようなキャラだった。手段を選ばない一途キャラ好きになりがち。
あの人が作った世界だから壊したいって言ってたから負けた時は守ってあげたい気持ちになった。女神とどんな生活を送っていてどこに忠義を感じてたのか知りたい。攻略対象になってほしいわけではないけど後日談が一番見たいのはイシュかも。今後何を生きがい(生きてるの?)にして過ごすんだろう。

まとめ

乙女ゲームとも言い切れないけど乙女向け成分たっぷりのゲームだった。囚われのパルマもいけたし、私はもう乙女ゲームの甘い部分を敬遠しなくても十分楽しめるのかもしれない。
ファンディスクの発売がすでに決まっているので発売が今から待ち遠しい。