読み始めてすぐ、主人公が芸人じゃなかったから「私が読みたかったのたぶん『火花』だったな……」と思い出したんだけど、せっかくなので読みました
売れない劇団の主宰・永田が偶然出会った女・沙希との出会いでちょっとずつ変わっていく話
私はミステリーとか動きの激しい話が好きなので、こういう小さいコミュニティでまとまってる話は久しぶりで新鮮だった
沙希との話と青山との喧嘩以外ほとんど永田の語りと心情でバンバン時間が進んでいく
内側にこもってる時間が長いから沙希との会話や青山と小峰の存在がより印象的だった
永田はほんとうに自分勝手で、沙希の前ではそのままの自分でいられるから甘えていたのに、自分が疎ましく感じ始めると離れたり彼女が他の人に別れたほうがいいと言われてると分かると一緒にいたいとわざわざ迎えに来たりする
彼女と関係が薄くなってくるタイミングで挟まってくる人たちがまともだから、永田の変わらなさが際立つところがよりつらい 青山との二回目のケンカとか
でも変わらないでいることに多少は負い目を感じてて、自分が変わらないでいたいがためにふざけてみたり正当化してるところが私には愛おしく見えた
彼は演劇への考え方は変わってるんだけど、表から見えるステータスとして周りから求められるほど変われてはないんだよね
沙希は自分の中にある基準とのギャップで悩んでて、でも永田には変わってほしいとは言わないで焦ってた自分を責めてたのが悲しいけど愛だなあと思う
最後にもう一回東京で会うことになった前の晩の「演劇でできることはすべて現実でもできる」からの沙希と会ってからの本読み、演劇の体で脱線していって思ってることを伝えるって最後の流れが好き
正直中盤で青山が入ってくるあたりまで動きがなくてちょっと退屈かもってとこもあったけど、最後の最後で報われた感じがした
読んだあとはコンパクトさを含めひとつの劇を見終わったあとみたいな気持ち
ふたりが永田の脚本どおりに関係を続けられるとは思わないけど、沙希が大事な存在だってちゃんと気付いたのは事実なのでそうなってほしいな~って希望を抱きつつ感想おわり